お酒についての おいしいお話
日本で働く外国人が増えてきましたが、好きな言葉を挙げてもらうと、
意外と人気なのが「ノミニケーション」です。
和製英語の独創性が面白いといって研究している外国人の先生が九州の大学にいたと思うのですが、” ノミニケーション ” も研究対象になっていることでしょう。

お酒の起源については、世界各地に、猿酒の伝説があるそうです。
猿が木の実や果物を集めて隠しておいたところ、
自然に発酵してお酒になったというものです。
もちろんそのままにしておけばすぐに腐敗するか、乾燥してしまいますから、
あくまでも伝説です。
自然界には果実やクマなどに取られた後のハチミツなどが自然発酵した物がありますが、
人類は偶然発酵したものを口にして、そのおいしさと酩酊感に魅了され、
お酒の文化が始まったのかもしれません。
アルコールの魔力に抗(あら)がえないのは、人類に限ったことではありません。
面白い話として、かつてオラウータンを捕まえるときに、
酔わせてから捕獲したということもあったそうです。


お酒って、おいしいの?
お酒が人類に愛され続けているのは、お酒がおいしいからこそでしょうが、
でも、本当においしいのでしょうか。
一流のシェフやパティシエが丹精込めて作った一皿や、もぎたてのフルーツなどを食べたとき、理屈抜きにおいしいと感じるものですが、
日本酒やワイン、ウィスキーなどのお酒を初めて口にしたときには、
はたして同じような味覚の感動にとらわれるでしょうか。
初めてビールを飲んだ時の苦さの記憶は残っているのに、
いつのまにか仕事の後や入浴後のビールが、至福の一杯になっています。
味覚には生まれながらにおいしいと感じるもの、例えば赤ちゃんが母乳に対して感じるようなものと、
慣れや経験、訓練などによって後から得られるものとがあるのだそうです。
例えば珍味といわれるようなものは、初めて食べた人にとっては何がうまいのか理解を超えていると思えるほどのものでも、
その味に慣れ親しんでいる人にとっては、これがたまらない、ということになります。
お酒も同じことで、初めて口にしたとき甘くておいしいと感じられるものと、
コクや深味、渋味といった、ある程度飲み慣れてこないと分かりにくいものがあります。

いま、日本のお酒が世界で人気をあつめています。
日本で作られたワインやウィスキーが、海外の品評会で高い評価を受け、
数々の賞を受賞しています。
日本人のモノ造りが、世界で広く認められるようになりました。
一時は消費が低迷していた日本酒も、酒蔵メーカーの努力によって、
フルーティですっきりした喉越しの新タイプの清酒や、雑味の少ない大吟醸などが多く創り出され、
女性ファンばかりか、海外での消費量も急増しています。

人気が出てきたお酒ですが、もちろん、飲んでみなければわかりません。
しかしお酒初心者の方には、種類が多すぎて、どんなお酒を選べばいいのか迷ってしまいます。
父の日に、お酒好きの父になにをプレゼントすればよろこんでもらえるのか、わかりません、といったお悩みをお持ちの方も多いようです。
EUと経済連携協定(EPA)が結ばれ、欧州の多くのお酒やワインが買いやすくなるので、いろいろ知っておきたいと思っている方も多いでしょう。


お酒にはどんな種類があって、どんな特徴があるのか。
それぞれの違いや特徴を知っておけば、お酒を選ぶ時のお役に立ちます。
そこで、誰にでもわかりやすいように、お酒には
どんな種類があり、どのように作られているのか、
お酒に関する言葉や歴史、お酒の健康効果や美容効果、お酒にまつわるトリビア(雑学)、こぼれ話など、いろいろな情報をあつめてまとめてみました。
(*お酒に関する蘊蓄(うんちく)を、少し知っておくと、場が盛り上がります。)
人類とお酒
お酒と人類のかかわりは長く、9千年から1万年くらい前にはすでに作られていたようです。
ウィキペディアには、
” 酒の歴史は非常に古く、有史(文字の歴史)以前から作られた。
最古の酒とされている蜂蜜酒(ミード)は
農耕が始まる以前から存在し、
およそ1万4千年前に狩人がクマなどに荒らされて破損した蜂の巣に溜まっている雨水を飲んだことが始まりとされている。 ”
また、
” 中国で紀元前7000年ごろの賈湖遺跡(かこいせき)から出土した陶器片から、
米・果実・蜂蜜などで作った醸造酒の成分が検出されたのが考古学的には最古の酒である。 ”
とありました。

お酒はその酩酊(めいてい)作用のせいか、神と人をつなぐ聖なる飲み物としての役割も果たしてきました。
いろいろな宗教儀式で、お酒は欠かせないものになっています。
フランスの詩人、思想家のポール・ヴァレリィの詩に、こんな1節があります。
「一(ひ)と日(ひ)われ海を旅して
(いづこの空の下なりけん、今は覚えず。)
美酒少し海へ流しぬ
” 虚無 ” に捧ぐる供物(くもつ)にと」
堀口大学「月下の一群」より
お酒の歴史は、人類の文化の歴史とともに歩んできたようです。
お酒は「百薬の長」か、「万病の素」か、はたまた「キチガイ水」か
お酒を愛する人の話は数多くありますが、嫌う人もまた多くいて、
その功罪についてはいろいろあります。
お酒で失敗する人もいれば、成功する人もいます。
それぞれの立場で正反対のことを言うわけですが、その意見を対比すると、
「酒は愁いを払う玉箒(たまぼうき)」⇔「狂薬にして佳味に非ず」
「百薬の長」⇔「百毒の長」
ストレスからの開放になるかと思えば、諍いの原因になったりもします。
歴史的には、時の支配者や法律で飲酒が禁止されたことが何度もあります。
どちらの意見に与(くみ)するかは、人それぞれです。
量やたしなみ方、体質などの問題で、多量に飲みすぎると内臓疾患を起こしたり、
アルコール依存症になりやすくなります。
先日テレビで、お酒を飲み始める年齢と、アルコール依存症患者数の関係を示す数字が示めされたのですが、
お酒を飲み始める年齢が早ければ早いほど、級数的にアルコール依存症患者数が増えていました。
先進国では飲酒の年齢制限のある国が多いですが、お国の都合ではなく、
医学的根拠があったわけです。
貝原益軒の『養生訓』には、「多く飲めばまたよく人を害する事、酒に過ぎたるはなし」と戒めていますが、昔から酒を飲みすぎて体を壊す人が絶えなかったということでしょう。
とはいえ、仏教の教えで禁じられているはずのお寺では、
般若湯と称して密(ひそか)にたしなんでいたようですから、
やめられない人はそれ以上に多かったに違いありません。
(*昔は、お寺で造られている僧房酒というものもありました。)
ちなみに、般若とは、梵語のプラジュニャーを約したもので、
知恵という意味だそうです。
般若湯はつまり「知恵の薬湯」のことで、修行中のお坊さんにとっては、
お釈迦様の知恵を授かるためには必要欠くべからざるものだった、のかもしれません。
*酔っぱらいの種類。
お酒の好きな人のことを上戸といい、飲めない人のことを下戸といいますが、
かなり古くからあった言葉で、平安時代に書かれた「今昔物語」にも出てくるそうです。
語源については、藤井高尚という人の『松の落葉』に、
「酒をよく飲む人を上戸といい、飲まぬ人を下戸というは、 古え百姓の戸口をいうに人口の多少によって、上戸、中古、下戸という事ありしが、 酒飲むことの多少を、それになぞらえていえるならむ」とあるそうです。
ただ、なぜか中戸は使われなくなったとのことです。
お酒を飲むと酔いますが、飲み会では先に酔った方が勝ちです。
” 大生酔(おおなまよい)を 生酔が世話をやき ”
と、江戸の川柳にもあります。
とはいえ、愛される酔い方をするか、嫌われる酔い方をするか、
はたまた酔っぱらったネコになるかトラになるか、千差万別です。
- 笑い上戸/うるさいのを我慢すれば、楽しい上戸。
- 泣き上戸/本人には気の毒ですが、見ていると面白い上戸。度が過ぎると切なくなります。
- お説教上戸(または絡み上戸)/相手に絡みはじめ、愚痴やら説教やら延々と続ける上戸。
- 小言上戸(上記のヴァリアンテ)/普段から小言の多いか、あまり言わないのに、酔うとこまごまいい始める上戸。基本的にパワハラに近い。
- 抱きつき上戸/やたら顔を近づけてきて、距離感を無視して話したがる、唾バラマキ型上戸。
- 怒り上戸/ストレス発散型上戸。あまり近づかないほうが賢明です。
- 薬上戸/飲むたびに苦い薬でも飲んだように顔をしかめる上戸。そのくせお酒好き。
- ニワトリ上戸/宴会場をあっちこっちバタバタ動き回り、注いでもらうとき、オットット、もうケッコウ。
- 塗り壁上戸/手のひらで壁を塗るようなしぐさをしながら、注いでもらうときもう結構ですから、といいながら杯を重ねる上戸。
- 後引き上戸/飲み始めると、ずるずると後をひき、いつまでも際限なく飲みたがる上戸。

お酒にかかわる言葉
いい年をしたおっさんが、酒に関するジョークとしてすぐに口にするのが、
「酒と女は2ゴウまでにしておけ。」です。
どうもウケると勘違いしているようですが、
すでに全国的に擦り切れるほど使い古されたジョークですし、2号さんはすでに死語に近い言葉になっています。
聞かされた方は、お愛想で苦笑いくらいは浮かべはしますが、できれば勘弁してほしいものです。
ウィキペディアに、古(いにしえ)のギリシャの賢人の言葉が紹介されていました。
” 第一の杯は健康、第二は喜び、第三は眠り、それから利口な男は家に帰る。
第四は無礼、第五は叫声、第六は街の中での乱暴、第七は殴り合い、第八は法廷への召喚。”
アテナイオス著、高津博士(訳)『食通大全』より。
我が国日本にも似たようなことわざがあります。
「1杯は人、酒を飲み、2杯は酒、酒を飲み、3杯は酒、人を飲む。」
分かったようでわからないことわざですが、
面白みに欠けるのでもう少ししゃれたものを紹介すると、
「お酒飲む人 花ならつぼみ 今日もサケサケ 明日もサケ」
「世の中に 酒と女は仇(かたき)なり どうぞ仇に巡り合いたい」
「花ならつぼみ」の歌は、おそらく良寛さんの歌をもじったのではないかと思われます。
良寛さんのもと歌は、こうです。
「さけさけと 花に主を任せられ 今日もさけさけ 明日もさけさけ」
酒に飲まれるのは嫌でも、浴びるほど飲んでみたいという秘かな願望は、
呑み助なら誰もが持っているようです。
古(いにしえ)の酒好き、万葉集からも二首。
「験(しるし)なき ものを思わずは一杯(ひとつき)の 濁れる酒を飲むべくあるらし」
「賢(さか)しみと もの言ふよりは酒飲みて 酔い泣きするしまさりたるらし」
思い悩んでも仕方がない、悲しみや苦しみは酒で飲み流そう、といったところでしょうか。
現代の酒豪、作家の故山本周五郎は、晩年、” 酒びたり ” になって執筆したそうです。
『(酒を控えて)10年生き延びるより、その半分しか生きられなくとも、仕事をするほうが大事だ。』
そういって、朝起きるなり好きなウィスキーを数杯あおり執筆、ひと寝してまた飲んで執筆、ウィスキーをひたすら消費しながら数々の名作を生み出していたそうです。
もう一人、忍者小説の人気作家、故山田風太郎は、自らを ” アル中ハイマー ” と称して、
朝っぱらから、『大ぶりのコップになみなみと満たした琥珀色の般若湯(はんにゃとう)を傾け』、夕方からまたウィスキーを飲む。寝酒としてさらに飲んだそうです。
おいしいお酒の選び方
おいしいお酒を選ぶのにはどうすればいいのか、
なんといっても、まず飲んでみなければわかりません。
飲み比べて自分に合ったものを選ぶのが最良の方法ですが、膨大な数の種類があり、
全部飲み比べるなんて、できません。
そこでおすすめなのが、専門家が選んでおすすめするものから始めることです。
酒屋さんはいろいろな種類のお酒を自ら試して、おすすめできるものを選びます。
ソムリエの方も、お酒ライフが少しでも豊かになるように提案してくれます。
酒屋さんがすすめる飲み比べセットや、ソムリエが選んだセットを試してみること、
「先達(せんだち)はあらまほしきことなり」です。
ただ、いたずらに飲み比べてみるだけではなく、
ある程度の予備知識を得て、
瓶のラベルを眺め、それが造られる土地の風景や造られるまでの過程、
それにまつわる歴史や逸話などを思い浮かべながら飲めば、
また格別な味になるはずです。
おいしいお酒、楽しいお酒を飲めば、自然とストレスも解消されます。
おいしいお酒を飲むために、そしておいしくお酒が飲めるように、
お酒の種類や特徴、歴史、造り方、お酒にまつわるエピソードなど、
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どうぞお楽しみくださ。